地球低軌道を編隊で周回する小型衛星群と、アンテナを展開したSAR衛星

REPORT 02 / CONSTELLATIONS

光学・SAR衛星コンステレーション — 地球観測インフラの最前線

衛星データビジネスの競争力を決めるのは、どのような衛星を、何機、どの軌道に配置するかという観測インフラの設計です。本ページでは、光学衛星とSAR衛星の技術的な違いを押さえたうえで、国内外の主要な衛星コンステレーション計画と、コンステレーション時代の観測体制の変化を報告します。

光学衛星とSAR衛星 — 原理と使い分け

地球観測衛星のセンサーは、大きく「光学」と「SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)」の二つに分けられます。光学衛星は、太陽光の反射を可視光や近赤外の波長帯で捉えるセンサーを搭載しており、人間の目で見た風景に近い、判読しやすい画像が得られます。植生の活性度を示すNDVI(正規化植生指数)のような指標計算にも適しており、リモートセンシングの主力として長く使われてきました。ただし、太陽光に依存するため夜間は撮影できず、雲がかかると地表が見えないという制約があります。日本のように年間の多くが曇天という地域では、この制約は実務上きわめて大きな問題になります。

一方のSAR衛星は、衛星自身がマイクロ波を地表に照射し、その反射波を受信して画像を合成します。自ら電波を発するアクティブセンサーであるため、夜間でも悪天候でも観測でき、災害対応や安全保障の分野では不可欠の存在です。また、電波の位相情報を利用する干渉SAR(InSAR)解析により、地盤の変動をミリメートル単位で捉えることも可能です。半面、SAR画像は白黒の反射強度画像であり、判読には専門知識が必要で、AIによる自動解析技術の重要性が光学以上に高い分野といえます。

OPTICAL vs SAR / 光学衛星とSAR衛星の比較
項目 光学衛星 SAR衛星
観測原理 太陽光の反射(受動型) マイクロ波の照射・受信(能動型)
夜間・悪天候 撮影不可(雲・夜間に弱い) 昼夜・天候を問わず観測可能
画像の判読性 高い(自然な見た目) 専門知識・AI解析が必要
得意分野 農業(NDVI)、都市計画、地図作成 防災、地盤変動(InSAR)、船舶検出、安全保障
代表例 Planet Dove、GRUS、Sentinel-2 QPS-SAR、StriX、ICEYE、だいち4号

実務では両者は競合ではなく補完関係にあります。平時は光学で広域をモニタリングし、緊急時や曇天時はSARで確実に観測する、という組み合わせが標準的な運用になりつつあります。

センサーの多様化も進んでいます。多数の波長帯で観測するハイパースペクトルセンサーは、植生の種類や土壌・水質の成分推定など、通常の光学画像では判別できない情報を引き出せる次世代技術として注目されています。熱赤外センサーによる地表面温度の観測は都市のヒートアイランド分析や工場の稼働監視に、夜間光の観測は経済活動の把握に応用されています。目的に応じて複数のセンサーを組み合わせる「マルチモーダル観測」が、地球観測の標準的な考え方になりつつあります。

性能を測る三つの指標 — 分解能・観測幅・再訪頻度

衛星データの商品力は、主に三つの指標で評価されます。第一に「分解能(地上分解能)」です。画像1ピクセルが地上の何メートルに相当するかを示し、商用光学では30cm級、商用SARでは1m前後からサブメートル級が最高水準です。第二に「観測幅」で、一度の撮影でカバーできる地上の幅を指します。だいち4号(ALOS-4)は従来機の4倍にあたる200kmの観測幅を実現し、広域監視の効率を大きく高めました。第三に「再訪頻度」で、同じ地点をどれだけ頻繁に観測できるかを示します。単機では1日〜数日に1回程度でも、多数機のコンステレーションを組めば、同一地点を1日に何度も観測できます。

この三つの指標はトレードオフの関係にあり、高分解能・広観測幅・高頻度をすべて単機で満たすことはできません。そこで業界の主流となったのが、小型衛星を多数機配備するコンステレーション戦略です。1機あたりの性能を割り切って量産性を高め、機数で観測頻度を稼ぐアプローチであり、衛星1機あたりの製造コストを従来の大型衛星の10分の1以下に抑える事例も登場しています。準リアルタイムに近い観測体制を誰が先に構築するかが、衛星データビジネスの最大の競争軸となっています。

性能指標を読む際には、カタログ上の数値と実運用の性能の差にも注意が必要です。たとえば再訪頻度は軌道上の理論値であり、実際には雲量(光学の場合)、撮影依頼の競合、地上局へのダウンリンクの制約などにより、意図した観測が得られないことがあります。ビジネス利用では「必要な時に必要な場所のデータが届く確率」こそが本質的な性能であり、事業者選定の際には過去の納入実績やサービス水準の取り決めを確認することが実務上のポイントとなります。

[PR]

海外の主要コンステレーション

海外に目を向けると、光学分野では米国のPlanet Labsが先行しています。同社は超小型衛星「Dove」を数百機規模で運用し、地球全体を毎日撮影する体制を確立しました。高分解能分野では、WorldViewシリーズを擁するMaxar Technologiesが30cm級画像で政府・地図サービス向けの需要を押さえています。欧州ではAirbus Defence and SpaceがPléiades Neoなどを展開し、公共・防衛市場で強い地位を保っています。

SAR分野の勃興はさらに劇的です。フィンランドのICEYEは世界初の小型SAR衛星コンステレーションを構築し、洪水被害の迅速把握サービスで保険業界に深く食い込みました。米国のCapella SpaceやUmbraもサブメートル級の小型SARを展開し、政府需要を中心に事業を拡大しています。これら小型SAR勢に共通するのは、衛星の量産と打上げのライドシェア(相乗り)を組み合わせて機数を急速に増やし、タスキングからデータ配信までをオンライン化している点です。従来は撮影依頼から納品まで数日を要した衛星画像が、数時間で手に入る時代に入りつつあります。

国内のコンステレーション計画

日本は小型SAR衛星の分野で世界的にも注目されるプレイヤーを複数抱えています。福岡のQPS研究所は、独自の収納式大型アンテナを持つ小型SAR衛星「QPS-SAR」シリーズを開発し、最終的に36機のコンステレーションによって特定地域を平均10分間隔で観測する構想を掲げています。東京のSynspectiveは小型SAR衛星「StriX」シリーズを展開し、30機のコンステレーション構築を目指しています。両社はそれぞれ2023年12月と2024年12月に東京証券取引所グロース市場へ上場し、資本市場から成長資金を調達しながら機数を増強しています。

光学分野では、アクセルスペースが超小型光学衛星「GRUS」による「AxelGlobe」を運用し、複数機体制で高頻度の広域観測サービスを提供しています。また、キヤノン電子も自社技術による超小型光学衛星を打上げてきました。公共部門では、JAXAの先進光学衛星「だいち3号」の後継計画や、2024年7月にH3ロケットで打上げられた先進レーダ衛星「だいち4号(ALOS-4)」が、広域SAR観測の基盤として民間データを補完しています。

政府系と民間の役割分担も明確になってきました。だいちシリーズのような公共衛星は、広域・継続・低コストという特性で国土の基盤的観測を担い、民間コンステレーションは高頻度・即応・高分解能という特性で商用需要と緊急需要に応えます。両者のデータを組み合わせることで、平時の変化監視から災害時の緊急観測までを切れ目なくカバーする体制が整いつつあり、この官民補完の構図は日本の地球観測政策の基本形として定着していく見通しです。

MAJOR CONSTELLATIONS / 主要コンステレーションの概況
運用者 衛星/計画 種別 特徴
QPS研究所(日本) QPS-SAR(36機構想) SAR 収納式大型アンテナ、平均10分間隔の観測を目標
Synspective(日本) StriX(30機構想) SAR 解析ソリューションまで垂直統合、2024年上場
アクセルスペース(日本) GRUS / AxelGlobe 光学 複数機による高頻度広域観測サービス
JAXA(日本) だいち4号(ALOS-4) SAR 観測幅200kmの広域観測、防災の基幹データ
Planet Labs(米国) Dove ほか 光学 数百機体制で全球を毎日撮影
ICEYE(フィンランド) 小型SAR群 SAR 洪水監視で保険業界に浸透

コンステレーション時代の観測体制

コンステレーションの整備が進むことで、地球観測のあり方は「アーカイブ検索」から「常時監視」へと質的に変化しています。従来の衛星データ利用は、過去に撮影された画像を探して購入する形が中心でした。これからは、関心のあるエリアをあらかじめ登録しておけば、新しい観測のたびに変化検出の結果が自動で届く、サブスクリプション型の監視サービスが主流になります。この変化は、防災・インフラ監視・安全保障のようにタイムリネスが価値を持つ用途で特に顕著です。

同時に、観測インフラの拡充はデータ量の爆発を意味します。1日に生成される衛星画像は既にペタバイト級に達しており、人手による判読は現実的ではありません。コンステレーションの価値を引き出すには、クラウド上での自動処理とAI解析、そしてデータを流通させるプラットフォームが不可欠です。解析技術の動向は将来展望で、データ流通の現況はデータプラットフォームと価格動向で詳述します。また、これらの観測インフラを支える企業の顔ぶれは国内主要プレイヤーをご覧ください。

本ページの要点:光学とSARは補完関係にあり、「分解能・観測幅・再訪頻度」のバランスをコンステレーションの機数で解決するのが業界の主流戦略です。国内ではQPS研究所とSynspectiveという上場SARベンチャー2社が機数拡大を競い、準リアルタイム観測の実現が視野に入っています。