QPS研究所とe-GEOS社の協業が示す、SAR衛星データ市場で始まる分析力の競争
ニュースの概要
日本の小型SAR衛星を運用するQPS研究所が、イタリアの衛星データ事業会社e-GEOS社と、SAR衛星データを使った地理空間インテリジェンス分野で戦略的な協業を始めると発表した。地理空間インテリジェンスとは、地球上の位置情報と衛星画像を重ね合わせ、安全保障や災害対応、資源管理などの判断材料に変える分析のことだ。e-GEOS社はイタリア宇宙機関と宇宙企業が出資する会社で、自国の観測衛星のデータ配信と分析を手がけてきた。一方のQPS研究所は、天候や昼夜を問わず撮影できる高精細な小型衛星の数を増やしている。撮影する側と、分析して売る側が手を組む動きとして読める。協業の細かな中身は、今後の発表を待つ必要がある。
引用元: QPS研究所と伊e-GEOS社、SAR衛星データを活用した地理空間インテリジェンス分野で戦略的協業を開始(iQPS, Inc.)
分析・見解
撮る会社と届ける会社、双方の弱点が補い合う
SAR衛星は、地表に電波を当て、跳ね返りから画像を作る。雲や夜に左右されないのが最大の強みだ。ただし出てくる画像は白黒の濃淡で、そのままでは何が起きているか読み取れない。港にいる船の数や、地盤がどれだけ沈んだかを知るには、専門の分析チームと、買い手との長い付き合いが要る。
QPS研究所は、軽量な衛星を自社で設計し、数を増やしていく力に強みがある。一方のe-GEOS社は、イタリアのCOSMO-SkyMed(=同国の軍民両用のSAR衛星群)のデータを、各国の政府機関や企業へ売ってきた。前者が撮る力、後者が届ける力を持つ。今回の協業は、この二つを重ねて、新しい顧客に手を伸ばす試みと読める。
大型と小型の併用で、撮り直しの間隔が変わる
大型衛星は画質が安定している反面、機数が限られる。同じ場所を撮り直せる間隔にも限界がある。小型を多数並べる方式なら、再訪頻度(=同じ地点を撮り直す間隔)を大きく縮められる。QPS研究所は将来的に36機体制を掲げ、平均10分ほどでの再訪を目標としている。大型で広く押さえ、小型で気になる地点を何度も見る。この使い分けが一つの窓口で実現すれば、買い手にとっての価値は高い。
欧州の公的機関にも事情がある。特定の国や企業の衛星だけに頼ると、供給が止まったときに身動きが取れない。調達先を複数持ちたいという要望は、地政学上の緊張が続くなかで強まっている。日本の衛星データは、その選択肢に入る可能性がある。
解像度の競争から、変化を読み取る競争へ
SAR市場では、フィンランドのICEYEや米国のCapella Spaceなど、小型衛星を飛ばす企業が先行している。衛星を増やすだけでは差がつきにくくなってきた。次の競争軸は、画像から何が分かるかだ。同じ場所を何度も撮って差を取れば、工事の進み具合、船の出入り、斜面のわずかな動きまで数字で追える。画像を売る商売から、判断材料を売る商売へと重心が移っている。
農作物の作柄把握、保険金の査定、橋やダムの点検にも同じ手法が使える。まず安全保障向けの需要が伸び、その収益で民間向けの分析が磨かれる流れは、GPSやインターネットの歴史にも重なる。ここで鍵になるのは、顧客が既存の業務システムにそのまま取り込める形で結果を渡せるかどうかだ。地図ソフトや社内の管理画面に、変化の通知が自動で届く。そこまで作り込んだ会社が、継続契約を握るだろう。
提携の中身が見えるまでは、割り引いて見たい
現時点で、協業がデータの相互販売なのか、共同の分析サービスなのかは、はっきりしない。合意の発表と、売上が立つ段階とのあいだには大きな距離がある。輸出管理のルールも国ごとに違い、精細な画像ほど扱いに制約が付く。加えて、データの保管場所や利用目的の制限を、双方の顧客がどう受け止めるかも見えていない。さらに、衛星の打ち上げが計画どおり進むかどうかも、成果を左右する。期待と同時に、実際の契約や納入の実績を見て判断したい。
ビジネスへの影響
衛星データの調達先は一社に絞らない
衛星データを業務で使う企業や自治体は、契約先の分散を考える時期に来ている。一つの事業者に頼ると、価格の上昇や供給停止の影響をまともに受ける。国産と海外の事業者を組み合わせ、同じ仕様で比べられる形にしておけば、交渉の材料が増える。まずは、現在使っている画像の解像度、撮影頻度、納品までの時間を一覧にするところから始めたい。
使い道を決めてから試験導入する
導入でよくある失敗は、データを買ってから用途を探すことだ。先に、何を監視したいのかを一つ決める。たとえば、保険会社なら大雨後の浸水範囲の確認、建設会社なら造成地の沈下の把握、物流企業なら港の混雑の推定が考えられる。その目的に必要な撮影間隔と精度を逆算し、三か月ほどの小さな試験で費用対効果を測るのが現実的だ。社内の稟議を通すには、衛星データで減らせる現地調査の回数や出張費を、数字で示すと説得力が増す。
分析を担える人材と契約条件を確認する
SAR画像は読み解きに慣れが必要で、社内だけで扱うのは難しい。分析を外部に任せる場合は、結果の根拠が説明できるか、過去の画像を遡って使えるか、二次利用の範囲はどこまでかを契約前に確かめる。特に、取得した画像を顧客向け資料や公開レポートに載せられるかは、事業者ごとに条件が違う。価格の面では、都度購入、定額の購読、特定地域の継続撮影という三つの形があり、使う頻度によって総額が大きく変わる。
日欧の協業が進めば、海外の案件でも同じ品質のデータを使える可能性が出てくる。海外拠点を持つ企業は、その動きを情報収集の対象に加えておくとよい。