自治体で広がる衛星データ活用の現場

森林と山に囲まれた地方都市の空撮と、大判の衛星地図を確認する自治体職員の様子

なぜ今、自治体が衛星データに注目するのか

衛星データの利用というと国や大企業の話と思われがちですが、この数年で最も導入が広がっている顧客層の一つが、実は市町村や都道府県といった自治体です。背景にあるのは、行政現場の深刻な人手不足です。農地の確認、森林の管理、水道管の点検、違法行為の監視。いずれも「広い面積を定期的に見て回る」業務であり、職員の減少と高齢化が進む中で、従来のやり方を維持することが難しくなっています。

広域を一度に、繰り返し、人が立ち入らずに観測できるという衛星データの特性は、この課題と正確に噛み合います。加えて、Tellusのような国内プラットフォームの整備や解析サービスの低価格化により、専門部署を持たない自治体でも「解析結果をレポートで受け取る」形での導入が可能になりました。デジタル田園都市構想をはじめとする行政DXの交付金・補助金が使えるようになったことも、導入の追い風となっています。

もう一つの背景として、業務のエビデンス化への要請があります。限られた予算で優先順位を決める説明責任が強まる中、「経験的にこの地区が怪しい」ではなく「データ上このエリアのリスクが高い」という根拠が、議会や住民への説明に求められるようになりました。広域を同一の基準で客観的に評価できる衛星データは、公平性が重視される行政の意思決定と相性がよいのです。

先行事例(1)水道管の漏水リスク解析

自治体向け衛星データ活用の代表例として知られるようになったのが、水道管の漏水リスク解析です。JAXA認定ベンチャーの天地人が展開するサービスは、衛星データや地形・気象などの宇宙ビッグデータを機械学習で解析し、水道管路を漏水リスクの高い順に色分けして提示します。従来の漏水調査は、調査員が音聴棒などで全管路を地道に点検する方式であり、広い市域では一巡するのに数年を要していました。

リスクの高いエリアから優先的に調査する方式に切り替えることで、同じ予算・人員でも漏水の発見効率を大きく高められることが、複数の導入自治体の実績で示されています。老朽化する水道インフラと減少する料金収入という構造問題を抱える水道事業にとって、「調査の優先順位付け」という形で衛星データが効果を発揮した好例であり、他のインフラ点検業務への横展開のモデルケースにもなっています。

漏水対策は経営指標への効果が測りやすいことも、普及を後押ししています。有収率(供給した水量のうち料金収入につながった割合)という共通指標があるため、衛星解析の導入前後で効果を定量的に示しやすく、他自治体への横展開の際にも説明が容易です。人口減少で料金収入が細る中、漏水の削減は貴重な経営改善策であり、衛星データはその実行手段として、広域の事業統合や官民連携の議論にも組み込まれ始めています。

先行事例(2)盛土監視・森林管理・税務調査

2021年の熱海市土石流災害を契機に成立した盛土規制法により、都道府県は広域の盛土を継続的に監視する責務を負うことになりました。しかし、山間部を含む全域を人手でパトロールすることは現実的ではありません。そこで導入が進むのが、衛星画像の時系列比較による地形変化の自動検出です。新たな造成や土砂の堆積が疑われる箇所を衛星で絞り込み、現地確認は候補地だけに限定する運用で、監視の網羅性と効率を両立させています。不法投棄の監視でも同様のアプローチが有効です。

森林行政では、伐採状況の把握や森林資源量の推定に衛星データを使う動きが広がっています。無断伐採の早期発見や、森林経営管理制度に必要な森林情報の整備は、航空写真だけでは更新頻度が足りず、衛星の高頻度観測が補完する形です。また、固定資産税の家屋調査では、衛星・航空画像の比較により未登記の増改築を検出する手法が実用化されており、税の公平性確保と調査業務の省力化を同時に実現しています。

このほか、耕作放棄地や作付け状況の農地調査、太陽光発電施設の設置状況の把握、海岸漂着ごみや藻場の分布調査など、部局を横断して活用テーマは広がっています。重要なのは、一つの部局で導入した衛星データやノウハウが、庁内の他部局でも再利用できることです。個別課題の解決から始めて、全庁的な地理空間情報基盤の一部へと育てていく発想が、投資対効果を最大化します。

導入プロセスと予算化のポイント

先行自治体の経験から、導入の進め方には共通のパターンが見えています。まず、単一の課題・単一のエリアに絞った小規模な実証から始めることです。「市内全域のあらゆる監視」といった大きな構想から入ると、費用も評価基準も曖昧になりがちです。漏水調査の対象地区、盛土の監視対象箇所など、効果を定量化しやすい業務を選び、従来手法とのコスト・工数比較を明確にすることが、次年度以降の予算化の説得材料になります。

次に、調達形態の選択です。衛星画像そのものを購入して庁内で解析する方式は専門人材を要するため、多くの自治体は「解析済みの結果」をサービスとして購入する方式を選んでいます。複数の自治体が共同で調達し、単価を下げる広域連携の事例も出始めました。国の交付金や実証事業の公募を活用すれば、初期費用の負担をさらに抑えられます。

担当者レベルでの第一歩としては、Tellusなどの無償プラットフォームで自分の自治体のエリアを実際に眺めてみること、先行自治体の事例報告会や事業者の勉強会に参加することが挙げられます。衛星データは「見てみると意外に分かる」「意外に分からない」の両方を体感することが重要であり、その実感が実証テーマの適切な設定につながります。

自治体市場は、衛星データ産業の側から見ても重要な意味を持ちます。全国どの自治体も似た課題を抱えるため、一つの成功事例が標準パッケージとして横展開しやすく、事業者にとって再現性の高い市場だからです。行政の現場で鍛えられたサービスが民間企業へ展開される流れも生まれており、自治体での活用拡大は、日本の衛星データ利活用ビジネス全体の底上げにつながっていくと考えられます。

最後に、成果の共有です。衛星データ活用はまだ新しい分野であり、先行事例の運用ノウハウや効果測定の方法は、自治体間で共有されることで業界全体の導入コストを下げていきます。農業分野の行政利用については農業・漁業への応用のレポートを、防災面での活用は防災・インフラ監視のレポートもあわせてご覧ください。

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